場面 1 相談、はじまり
経営者

あの……会員制度を、作りたいんです。

岸本

会員制度を。

経営者

はい。お客さんに、会員になってもらいたくて。

岸本

会員に。……どうして、会員に?

経営者、少し考える。
経営者

えっと……なんでしょうね。みんな、よく来てくれるんです。

岸本

よく来てくれる。

経営者

話しやすい店なんです。常連さんが多くて。

岸本

話しやすい店。

経営者

そうなんです。だから、もっと何かできないかなと。

岸本、すぐには答えない。少し、間。
岸本

……なるほど。

ここまで、岸本は一度も説明していません。「会員制度とは」も、「おすすめのシステムは」も、まだ言わない。

ただ、経営者の言葉を、そのまま返しているだけです。会員制度を。よく来てくれる。話しやすい店。——鏡のように。

場面 2 言葉を、ほどく
岸本

会員制度というと、何を思い浮かべますか?

経営者

ポイントカードとか。あと、アプリとか。会員サイト

岸本

ポイント、アプリ、会員サイト。

経営者

はい。あと、月額とか。サブスク、っていうんですか。

岸本

月額。……それは、やりたいことですか? それとも、よく聞くからですか?

経営者、笑う。
経営者

……あー。言われてみると、よく聞くから、かもしれません。

岸本

なるほど。

ポイントカードも、アプリも、月額も。ぜんぶ「手段」の名前です。手段の名前は、たくさん出てきます。でも、まだ何も決まっていません。

岸本は、ここでも説明しませんでした。ただ、一つだけ聞きました。「やりたいことですか、よく聞くからですか」と。

場面 3 いちばん奥の言葉へ
岸本

さっき、「話しやすい店」って、おっしゃいましたね。

経営者

はい。

岸本

その「話しやすい」を、会員制度で、どうしたいんでしょう。

経営者、しばらく黙る。
経営者

……うーん。……減らしたくない、というか。

岸本

減らしたくない。

経営者

来なくなる人が、たまにいて。引っ越しとか、それは仕方ないんですけど。なんとなく、来なくなる人が。

岸本

なんとなく、来なくなる。

経営者

そう。気づいたら、最近見ないな、って。

岸本、すぐには整理しない。
岸本

……それは、寂しいですね。

経営者

そうなんです。寂しいんですよ。

岸本

正直に言うと——私、まだ分かりません。

経営者

え。

岸本

これが、会員制度の話なのか。まだ、分からないんです。

経営者、ちょっと笑う。
経営者

……そうなんですか。

岸本

ポイントカードを作れば、その人は戻ってくるでしょうか。

経営者

……戻らない、かも。

岸本

アプリを、入れてもらえば?

経営者

……どうだろう。入れてくれるかな。

岸本

ですよね。私も、まだ分かりません。

岸本が、紙に一つだけ描いた図

管理

SYSTEM の言葉

  • 何人いるか
  • いつ更新か
  • いくら払うか
  • どう退会するか
今日、ここが動いた

関係

人の言葉

  • また来たくなる
  • 覚えている
  • 気にかけている
  • 続いていく

この図は、何かを理解させるためのものではありません。「管理」から考え始めていた頭を、「関係」の側へ、少しだけ動かすためのものです。それだけの一枚です。

岸本

会員制度って、つい左から——「管理」から、考え始めるんです。何人いて、いつ更新で、いくら払って。

経営者

あー、はい。それを、考えてました。

岸本

でも、さっきの「なんとなく来なくなる人」。あれは、管理の問題でしょうか。

経営者、図を見たまま、少し黙る。
経営者

……関係、ですかね。

岸本

私も、そう思います。

場面 4 ご自分の言葉で
経営者、少し前のめりになる。
経営者

……あれ。じゃあ、私が作りたいのは……

岸本

ゆっくりで、大丈夫です。

経営者

会員制度っていうより……関係を、続ける仕組み?

岸本

関係を、続ける仕組み。

経営者、笑う。
経営者

……あ。そっちか。

岸本

今、ご自分で、おっしゃいましたね。

経営者

なんか、すっきりしました。システムの話だと思ってたのに。

岸本

システムは、後でいいんです。

経営者

後で。

岸本

何を続けたいか。それが、先です。順番だけ、間違えなければ。

今日、分かったこと

「会員制度を作りたい」の奥にあったのは、
「関係を、続けたい」だった。

この相談で、岸本は新しい知識を一つも教えていません。経営者自身が話した言葉——「話しやすい店」「なんとなく来なくなる」「寂しい」——を、ただ並べ直しただけです。それでも、本当に作りたかったものの名前は、ご自分の口から出てきました。システムを選ぶのは、その名前が決まってからで、遅くありません。

この相談の、いちばん奥
システムを選ぶ前に、「何を続けたいか」を整理する。

会員制度は、管理の仕組みから始めると、つい「人数・更新・会費」の話になります。でも、最初に決めるべきは、続けたい関係の方です。会員を管理する時代は終わりました。これからは、人との関係を設計する時代です。

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「入会を、簡単にしたいんです。」── その一言を、また一緒にほどきます。

次回も、ある日の相談から始まります。「入会を簡単に」と言って来られた方と、岸本が、また一枚の紙の前に座ります。簡単にする、とは何を簡単にすることなのか。同じやり方で、ゆっくり整理していきます。どうぞ、また隣の席へ。

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「何から話せばいいか分からない」から、どうぞ

この記事のような相談を、実際にお受けしています。会員制度・継続課金・運営の見直しまで。答えを急がず、まず「何を続けたいか」を一緒に整理するところから。システム選びの前に、お気軽にご相談ください。

岸本 健志
会員ビジネスLab 主任研究員 / ハートランドITイノベーション代表

1997年よりインターネット業界に従事。2007年の創業以来、EC、メディア、SaaS、コミュニティサイトなど数多くの会員ビジネスの立ち上げと成長を支援。

20年以上ご相談を受けてきて、最初の相談の言葉と、本当に作りたかったものが同じだったことは、意外と少ない——と感じています。だから、説明より先に、聞くこと。それを、いちばん大切にしています。

「会員を管理する」から「人との関係を設計する」へ。会員ビジネスの未来に、これからも愚直に向き合い続けていきます。

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