広告運用やSEO対策は、毎月料金を支払う継続契約で提供されることが多いサービスです。しかし、商品が毎月届くわけではありません。契約者が管理画面を開かなければ、実際に何が行われたのかも見えにくい。さらにその成果は、競合、市場環境、予算、商品力、サイトの品質、検索エンジンの変化などにも左右されます。

つまり広告・SEOは、提供された仕事や価値が見えにくいまま、契約だけが継続しやすいサービスです。そしてこれは、広告業界だけの問題ではありません。コンサルティング、システム保守、Web運用、記事制作、SNS運用、オンラインサポートなど、形のないサービスを月額で提供する事業には、同じ問題があります。

見えないことを利用して契約を継続させるのか。それとも、行った仕事と使った費用を見えるようにし、納得したうえで継続してもらうのか。

この違いは、継続課金ビジネスの信頼を大きく左右します。広告やSEOで最初に確認すべきなのは、成果が出たかどうかだけではありません。

契約した業務を、本当に実施したのか。
そして、実施したと言えるだけの量と質があったのか。

この記事では、広告・SEOという「見えないサービス」を題材に、成果が出なかった場合、作業が不十分だった場合、何も実施されていなかった場合、虚偽報告が行われた場合を分けて考えます。

「成果が出ない」と「仕事をしていない」は同じではない

広告の成果には、商品やサービスの内容、販売価格、広告予算、広告文、画像、配信対象、LPの品質、競合状況、季節、市場環境、問い合わせ後の営業対応など、多くの要因が影響します。

SEOも同じです。記事を作成したり、サイトを改善したりしても、必ず短期間で検索順位が上がるわけではありません。競合サイトの更新、検索需要の変化、検索エンジン側の仕様変更などにも左右されます。したがって、「売上が増えなかったから、広告会社は何もしていない」「検索順位が上がらなかったから、SEO会社は仕事をしていない」とは限りません。

一方で、「成果保証ではありません」という説明だけで、何を実施したかを示さなくてよいわけではありません。成果を保証できなくても、少なくとも次のことは説明できる必要があります。

成果を保証できなくても説明できるべきこと
  1. 何を行ったのか
  2. いつ行ったのか
  3. 何を変更したのか
  4. どのデータを確認したのか
  5. 料金を何に使ったのか
  6. 次に何を行うのか

広告やSEOでは、成果と業務実施を分けて確認する必要があります。

問題は、四つに分けて考える

広告・SEOの契約トラブルは、「成果が出たか」「仕事をしたか」という二つだけでは整理できません。実務上は、次の四つに分けて考える必要があります。

01

適切に業務を行ったが、成果が出なかった

契約した広告運用やSEO対策を適切に行ったものの、期待した売上、問い合わせ、検索順位につながらなかった場合。成果が出なかったというだけで、直ちに違法や契約違反になるとは限りません。

直ちに違法とは限らない
02

作業は行ったが、量や質が著しく不十分だった

形式上は作業しているものの、契約内容・料金・専門事業者として期待される水準に達していない場合。例えば月額30万円の広告運用契約で、実際は月に一度、短時間だけ管理画面を見るだけ――。一度見れば「実施した」と言い切れるでしょうか。求められるのは、契約と料金に照らして必要な確認・分析・調整・提案を適切に行うことです。

不完全な履行・注意義務違反
03

契約した業務を行っていなかった

広告を配信する契約なのに配信していない。月4本の記事を作る契約なのに一本も作っていない。毎月改善提案を行う契約なのに何も提案していない。契約上の業務そのものが行われていないため、債務不履行が問題になります。

債務不履行・解除・返金
04

実施していないのに、実施したと報告した

配信していない広告を「配信中」、変更していない設定を「最適化済み」、使っていない広告費を「使用済み」と報告する。単なる作業不足より問題は重く、債務不履行だけでなく不法行為や、事案によっては詐欺の問題に発展する可能性があります。

事案によっては詐欺
状態主に問題となること
適切に実施したが成果が出なかった直ちに違法とは限らない
実施したが、量や質が著しく不十分だった不完全な履行、契約内容との不一致、注意義務
契約した業務を実施しなかった債務不履行、解除、返金、損害賠償
実施していないのに実施済みと報告した債務不履行、不法行為、事案によっては詐欺

「何もしない」より悪い、「有害な作業」もある

広告やSEOでは、作業をしたという事実だけでは十分ではありません。行った作業の内容が適切だったかも重要です。特にSEOでは、作業を行ったことで、かえってサイトへ悪影響を与える場合があります。

かえって害になり得る施策
  • 品質の低い記事を大量に公開する
  • 無関係なサイトから不自然な被リンクを集める
  • 検索順位だけを目的にページを量産する
  • 顧客の確認を得ずに重要なURLを変更する
  • サイト全体の構造を壊す改修を行う
  • 検索エンジンの方針に反する手法を用いる

これは「何もしていなかった」という問題ではありません。行った業務が不適切だったという問題です。広告運用でも、必要な除外キーワードを設定しない、誤った地域へ広告を出す、計測が壊れたまま運用する、予算を意図しない広告だけで消化するといったことがあります。

確認すべきなのは、「何かをしたか」だけではありません。契約の目的に合った作業だったのか。専門事業者として合理的な判断だったのか。顧客へ不必要な不利益を生じさせる内容ではなかったのか。そこまで含めて見る必要があります。

広告運用やSEO契約は、何を約束した契約なのか

広告運用や継続的なSEO支援は、契約内容によっては、成果の完成そのものではなく、専門的な注意をもって業務を行うことを約束する「準委任」に近い契約として整理されます。準委任には委任に関する規定が準用され、受任者には契約の趣旨に従って善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務があります。民法上、請負は「仕事を完成すること」を目的とする契約であり、準委任とは義務の中心が異なります。

もっとも、実際の広告・SEO契約には運用支援と記事制作、サイト改修などが混在するため、契約全体が一律にどちらかへ分類されるとは限りません。例えば、毎月の広告運用や助言は準委任的であっても、成果物の完成を約する部分は請負的な性質を持つことがあります。

準委任的な部分(業務を行う義務)
  • 毎月の広告運用
  • 配信状況の確認・調整
  • 継続的なSEO助言
  • 定期的な分析・提案
請負的な部分(成果物を完成する義務)
  • 記事を月4本納品する
  • 指定したページを完成させる
  • LPを制作する
  • 指定物を成果として引き渡す

重要なのは、契約の名称ではありません。次のことを契約ごとに確認することです。

自分のブラウザで検索しても、正確には分からない

広告やSEOが見えにくい理由の一つは、検索結果や広告表示が、すべての利用者に同じように表示されるわけではないことです。検索結果は、地域、端末、言語設定、検索履歴、アカウントの状態、検索時刻、検索語句などによって変わることがあります。広告表示も、配信地域、配信時間、端末、キーワード、広告予算、入札状況、競合広告、広告審査、予算の消化状況などに左右されます。

そのため、自分のパソコンやスマートフォンで検索し、「広告が出てこない」「検索順位が上がっていない」と感じても、それだけで広告やSEOを実施していないとは判断できません。反対に、運用会社のパソコンで広告が一度表示されたり、特定の条件で上位表示されたりしても、継続的に適切な運用を行っている証明にはなりません。

「Googleで検索すれば広告が表示されます」「このキーワードでは上位になっています」

という説明だけでは、業務実施の証明としては不十分です。

月次レポートは届く。しかし、何をしたのか分からない

これは一社だけの特殊な問題ではありません。当社が事業者から相談を受ける際にも、月額費用を支払い、毎月PDFレポートは受け取っているものの、実際の管理画面を見られず、何を変更したのか分からないという状況があります。

レポートには表示回数やクリック数が記載されています。しかし、広告費の実額、設定変更の履歴、実施した改善、翌月の方針が分かりません。「今月も最適化を行いました」という説明だけが続きます。こうしたケースで最初に見るべきなのは、売上が増えたかどうかではありません。

成果が出なかった問題と、契約した業務が十分に提供されなかった問題を混ぜると、争点が見えなくなります。

※この事例は、特定の一社や一件を示すものではなく、複数の相談で見られる状況を再構成したものです。

費用・作業・アカウントを見えるようにする

「見えないサービス」を確認できる状態にするには、大きく三つのものを可視化する必要があります。

費用を見えるようにする

同じ月額30万円でも「広告費25万円+手数料5万円」と「広告費10万円+手数料20万円」では内容が全く異なります。広告費・運用手数料・制作費・外部ツール費などを可能な限り分けて表示し、未使用分を繰り越すのか、返金するのか、別施策へ使うのかも明確にします。

作業を見えるようにする

広告では広告費・表示回数・クリック数・広告文・配信地域・検索語句・除外KW・設定変更履歴を、SEOでは修正ページ・作成記事・タイトルや見出しの変更・内部リンク・技術修正・作業日を確認します。「継続的に最適化しています」ではなく、いつ・何を・なぜ変更したのかを残します。

アカウントを見えるようにする

広告アカウントは契約者名義で作成し、運用会社へ必要な権限を付与します。Search Console・解析・タグ管理・CMS・ドメイン・サーバー・SNSも、契約終了で発注者がデータや権限を失わない構成が望まれます。アカウントや過去データを解約防止の人質にしてはいけません。

PDFレポートだけでは、実施の証明にならないことがある

毎月レポートが提出されていても、それだけで業務実施を十分に確認できるとは限りません。PDFや表計算ソフトに記載された数字は、元の管理画面を確認しなければ、その正確性を判断できないからです。月次レポートには、少なくとも次の内容が必要です。

「SEO対策を継続して実施しました」という一文だけでは、何を行ったのか分かりません。「5ページのタイトルを修正し、3ページへ内部リンクを追加した。新規記事を2本公開した」というように、実施した内容が具体的に分かる必要があります。

実施していなかった場合、どのような法律問題になるのか

広告やSEOで成果が出なかったというだけでは、直ちに法律違反になるわけではありません。一方で、契約した業務を実施していない、著しく不十分な業務しか行っていない、実施していない業務を実施済みと報告した、使っていない広告費を使用済みと報告した場合は、別の問題です。

状況主に問題となり得るもの
業務は適切に行ったが成果が出なかった直ちに違法とは限らない
作業量や品質が契約上求められる水準に達していない債務不履行、契約解除、損害賠償など
契約した作業を行わなかった債務不履行、解除、返金、損害賠償
契約前に事実と異なる説明をした民法上の詐欺、消費者契約法、景品表示法など
実施していないのに実施済みと報告した債務不履行、不法行為、事案によっては詐欺
広告費を使用したと偽って請求した返還請求、損害賠償、事案によっては詐欺
預かった広告費を契約外の用途へ流用した返還義務、債務不履行、不法行為、管理形態によっては横領等
「必ず1位になる」などと表示した景品表示法、特定商取引法など
料金や契約期間を誤認させた消費者契約法、景品表示法、特定商取引法など

法律違反や犯罪の成立は、契約内容、説明内容、当事者の認識、故意、損害、金銭の管理方法、証拠などによって個別に判断されます。

最初から提供する意思がなかった場合

契約後に作業管理が不十分になった場合と、契約時点から業務を提供する意思がなかった場合は、同じではありません。詐欺と債務不履行を区別するうえでは、契約時点または料金を請求した時点で、相手をだます意思があったかが重要な問題になります。例えば、次のような事情です。

このような場合には、単なる契約不履行にとどまらず、民法上の詐欺による取消しや、事案によっては刑法上の詐欺罪が問題になる可能性があります。刑法は、人を欺いて財物を交付させた行為を詐欺として定めています。

ただし、契約後に経営状況が悪化した、担当者が退職した、受注管理に失敗した、能力が不足していたという事情だけで、直ちに「最初からだます意思があった」と断定することはできません。契約前の説明、当時の業務体制、入金後の行動、虚偽資料の有無、同様の行為の反復などから、個別に判断されます。

広告費を預かったのに、媒体へ使わなかった場合

広告費として預かった金銭を、契約どおり広告媒体へ使用しなかった場合は、特に注意が必要です。例えば「広告費20万円、運用手数料5万円」として毎月25万円を請求していたにもかかわらず、実際には広告費を5万円しか使用していなかった場合です。

未使用分を翌月へ繰り越す契約であれば、直ちに問題になるとは限りません。しかし、20万円全額を使用したと虚偽報告し、差額を事業者が取得していた場合は、返還義務、債務不履行、不法行為、詐欺などが問題になる可能性があります。

また、適法に預かった金銭を、その後、自社の別用途へ流用した場合には、金銭の預かり方や管理形態によって、横領や業務上横領が問題になる可能性もあります。刑法は、自己の占有する他人の物の横領と、業務上自己が占有する他人の物の横領を区別して定めています。

もっとも、支払った金銭が法律上の預かり金なのか、広告枠と運用を一体として提供する役務の対価なのかによって、法律上の評価は異なります。そのため、広告費と運用手数料を明確に分け、実際に媒体へ支払った金額を確認できるようにすることが重要です。

「成果を保証しない」と書けば免責されるのか

広告・SEOの契約書には、次のような条項が置かれることがあります。

当社は、売上、問い合わせ数、検索順位その他の成果を保証しません。

この条項には合理性があります。広告やSEOの成果を、運用会社が完全に支配することはできないからです。しかし、この条項によって、次のことが許されるわけではありません。

「成果を保証しない」という条項は、契約した業務を適切に実施する義務まで免除するものではありません。

長期契約にするなら、事業者側の義務も定める

広告やSEOでは、改善に一定の期間が必要なことがあります。そのため、3か月、6か月、1年間といった最低契約期間を設けることには、一定の合理性があります。ただし、契約者だけを長期間拘束するのではなく、事業者側の義務も契約へ定めるべきです。

長期契約で事業者側にも定めたい条件(例)
  1. 毎月、実施した作業・広告費・設定変更・主要指標を報告する。
  2. 契約者へ管理画面やアクセス解析の閲覧権限を付与する。
  3. 定期的に実施内容と改善方針を説明する。
  4. 合意した業務が行われない場合、契約者は改善を求められる。
  5. 改善要求後も履行されない場合、契約を解除できる。
  6. 未実施分の費用の取扱いを定める。
  7. 契約終了時のデータやアカウントの引継方法を定める。

長期契約であることを、作業や報告を曖昧にする理由にしてはいけません。

「違法だ」と判断する前に確認したい資料

法律上の責任を検討するには、「作業をしていない気がする」という感覚だけでなく、客観的な資料が必要です。確認したい資料は次のとおりです。

まず、何を約束していたのかを確定します。そのうえで、何が実施されたのか、何が不十分だったのか、何が実施されていないのか、報告内容と実際の作業に違いがないかを確認します。

受注する側も、実施した証拠を残す

実施内容の可視化は、発注者だけを守るものではありません。広告会社やSEO会社にとっても、自社が適切に業務を行ったことを証明する重要な記録になります。受注者側は、次の記録を残しておく必要があります。

発注者が改善案を採用しなかった、必要な素材を提出しなかった、提案した作業を承認しなかったという場合も、その経緯を記録しておくことが重要です。可視化は、事業者を監視するためだけの仕組みではありません。発注者と受注者の双方が、同じ事実を確認できるようにするための仕組みです。

見えないサービスほど、見えるようにする

広告やSEOで問われるのは、成果が出たかだけではありません。

約束した業務を実施したのか。
料金に見合う量と質だったのか。
その事実を、客観的な記録によって説明できるのか。

成果を完全に保証することはできなくても、実施した業務は見えるようにできます。広告費、管理画面、作業履歴、制作物、変更記録、月次報告。こうした記録は、発注者を守るだけでなく、誠実に業務を行った受注者自身を守るものでもあります。

継続契約は、見えないことによって続けてもらうものではありません。

見えるようにすることで、納得して続けてもらう。

見えないことを利用して契約を続けさせれば、失われるのは一件の契約だけではありません。事業者と利用者、発注者と受注者の間にあった信頼そのものが、少しずつ蝕まれていきます。関係を長く続けるために必要なのは、仕事をしていると信じてもらうことではなく、実施した事実を、同じ画面で確認できるようにすることです。

それが、広告・SEOをはじめとする「見えないサービス」に必要な信頼の設計です。

※本記事は、広告運用、SEO対策および関連サービスの契約・運用に関する一般的な考え方を整理したものです。法律違反や犯罪の成立は、契約内容、説明、当事者の認識、故意、損害、証拠、金銭の管理方法などによって個別に判断されます。具体的な契約解除、返金請求、損害賠償、刑事上の問題については、弁護士などの専門家へご確認ください。

岸本 健志
会員ビジネスLab 主任研究員 / ハートランドITイノベーション代表

1997年よりインターネット業界に従事。2007年の創業以来、EC、メディア、SaaS、コミュニティサイトなど数多くの会員ビジネスの立ち上げと成長を支援。

30年近く会員システムの設計・運用に携わる中で、システムは「会員を管理するもの」から「人と人との関係(Relationship)を育てるもの」へ転換すべきだと確信。現在は、AI時代における次世代のシステム設計思想として「Relationship OS」を提唱しています。

また、自身も宿泊施設の運営で現場に立ち続け、『起きている時間はすべて仕事であり、システムへの探求』という圧倒的な熱量で、会員ビジネスの未来に向き合っています。

会員ビジネスや継続課金サービスの運営では、集客のために広告・SEOを外部へ委ねる場面が少なくありません。「この費用は何に使われているのか」「本当に作業されているのか」と迷ったとき、確認すべきポイントや契約の考え方について、お気軽にご相談ください。

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参考資料

本記事は公表されている法令・公式ドキュメントと、筆者の長年の実務経験・考察をもとに構成しています。個別の事案については、必ず専門家へご確認ください。

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