稲盛和夫さんは、京セラを創業し、日本航空の再建にも取り組んだ経営者として知られている。アメーバ経営という独自の経営手法を築き、「利他」の精神を繰り返し説き、多くの経営者に影響を与えてきた。
日本で、その名前を聞くことに驚きはない。私が驚いたのは、中国だった。
Ⅰその名前は、何度も現れた
世界有数の産業クラスターで出会った中小企業の経営者が、ごく自然に話してくれた。
「尊敬する経営者は、稲盛和夫さんです。」
最初は偶然だと思った。しかし、その名前は一度では終わらなかった。何人もの経営者が、同じ名前を口にした。誰かが勧めたわけでもない。話題を誘導したわけでもない。その名前は、何度も現れた。
Ⅱその理由を考えていた
私は、その理由を考えていた。京セラという会社を創業したからだろうか。日本航空を再建したからだろうか。アメーバ経営という手法だろうか。利他という考え方だろうか。
もちろん、そのどれも理由なのかもしれない。けれど、それだけでは、この現象は説明できないように思えた。
私が見ていたのは、一人の経営者ではなかった。一つの経営手法でもなかった。何人もの経営者が、それぞれの会社で考え、実践し、悩み、その中で少しずつ受け継いできた何かだったように思う。
会社は違う。規模も違う。競争相手でもある。それでも、どこか同じものを見失わないように仕事をしている。
私は、その光景を中国で見ていた。
けれど、その意味を、その場では言葉にすることができなかった。
Ⅲ持ち帰ったのは、問いだった
帰国してから、私は稲盛和夫さんについて調べ始めた。経営手法を知りたかったからではない。成功した理由を知りたかったわけでもない。
あれほど多くの経営者が、なぜ同じ名前を口にしたのか。私は、その理由を知りたかった。
一つの問いだった。
1997年よりインターネット業界に従事。2007年の創業以来、EC、メディア、SaaS、コミュニティサイトなど数多くの会員ビジネスの立ち上げと成長を支援。30年近く会員システムの設計・運用に携わる中で、システムは「会員を管理するもの」から「人と人との関係を育てるもの」へ転換すべきだと考えるようになった。
本書『共同編集』は、その思索の延長線上にある。一人の経営者と一つのAIによる長期間の共同編集をケーススタディとし、共有されたコンテクストが人間の思考・創造・判断へどのような影響を与えるのかを、観察者の立場から書き進めていく。
本書は、公表されている技術仕様・公式ドキュメントと、筆者の長年の実務経験・考察をもとに構成しています。本文中の観察・解釈は筆者個人によるものであり、特定のAI・製品・企業・人物の性能や評価を保証・断定するものではありません。