帰国してから、私は稲盛和夫さんについて調べ始めた。最初の目的は単純だった。中国で見た産業クラスターを、自分なりに整理したかった。
なぜ、あれほど多くの中小企業が集まり、世界最大級のサプライチェーンを支えているのか。なぜ、その中で何人もの経営者が、同じ名前を口にしたのか。その理由を書こうと思った。
Ⅰ理由を書こうとした
稲盛さんの講演を読み、本を読み、京セラフィロソフィにも目を通した。アメーバ経営。利他の精神。判断基準を「人として何が正しいか」に置くという考え方。数字だけでは説明できない経営。一つひとつに納得した。
けれど、私の問いは終わらなかった。むしろ、前より大きくなっていた。
Ⅱ書いては、削った
私は、稲盛哲学を理解しようとしていたのではなかった。中国の産業クラスターを理解しようとしていたのでもなかった。
何度も書き始めた。何度も止まった。書いては削り、また書いては削った。書き直すたびに、文章は少しずつ違う場所へ向かっていく。私は何を書こうとしているのだろう。
Ⅲ問いが変わっていた
そう考え続けるうちに、一つのことに気づいた。問いが変わっていた。
私が知りたかったのは、なぜ中国で稲盛和夫さんが尊敬されているのか、ではなかった。
なぜ、一人の思想は国境を越えるのだろう。
なぜ、その思想は人から人へ受け継がれるのだろう。
1997年よりインターネット業界に従事。2007年の創業以来、EC、メディア、SaaS、コミュニティサイトなど数多くの会員ビジネスの立ち上げと成長を支援。30年近く会員システムの設計・運用に携わる中で、システムは「会員を管理するもの」から「人と人との関係を育てるもの」へ転換すべきだと考えるようになった。
本書『共同編集』は、その思索の延長線上にある。一人の経営者と一つのAIによる長期間の共同編集をケーススタディとし、共有されたコンテクストが人間の思考・創造・判断へどのような影響を与えるのかを、観察者の立場から書き進めていく。
本書は、公表されている技術仕様・公式ドキュメントと、筆者の長年の実務経験・考察をもとに構成しています。本文中の観察・解釈は筆者個人によるものであり、特定のAI・製品・企業・人物の性能や評価を保証・断定するものではありません。