問いが変わると、不思議なことが起きた。同じ本を読んでいるのに、以前とは違うものが見え始めた。
私は、京セラフィロソフィを読んでいた。けれど、目で追っていたのは、本に書かれた言葉ではなかった。その言葉が生まれるまでの時間だった。
Ⅰ本になった言葉は、結果だった
アメーバ経営という考え方は、ある日突然生まれたものではない。利他という言葉も、最初から完成していたわけではない。
工場があった。社員がいた。迷いがあった。失敗があった。毎日の判断があった。その一つひとつが積み重なり、ようやく言葉になっていった。
私は、その積み重ねのほうが気になった。本になった言葉は、結果だった。
その前には、本には書かれていない長い時間がある。
Ⅱ書かれていない時間
対話があり、葛藤があり、試行錯誤があったはずだ。私は、その時間を想像していた。
そして、ふと立ち止まった。私は、何を見ているのだろう。本だろうか。思想だろうか。それとも、その思想が生まれるまでの時間なのだろうか。
Ⅲあの街で、私が見ていたもの
そのとき、中国で見た産業クラスターの光景が、もう一度頭に浮かんだ。あの街で私が見ていたのも、完成したサプライチェーンではなかったのかもしれない。
そこに至るまでの長い時間だった。何千という会社が考え、判断し、迷い、競争し、協力しながら積み重ねてきた時間。
私は、その時間を見ていたのかもしれない。
1997年よりインターネット業界に従事。2007年の創業以来、EC、メディア、SaaS、コミュニティサイトなど数多くの会員ビジネスの立ち上げと成長を支援。30年近く会員システムの設計・運用に携わる中で、システムは「会員を管理するもの」から「人と人との関係を育てるもの」へ転換すべきだと考えるようになった。
本書『共同編集』は、その思索の延長線上にある。一人の経営者と一つのAIによる長期間の共同編集をケーススタディとし、共有されたコンテクストが人間の思考・創造・判断へどのような影響を与えるのかを、観察者の立場から書き進めていく。
本書は、公表されている技術仕様・公式ドキュメントと、筆者の長年の実務経験・考察をもとに構成しています。本文中の観察・解釈は筆者個人によるものであり、特定のAI・製品・企業・人物の性能や評価を保証・断定するものではありません。