お金を扱う大人の算数、第9回。前回は、割引を使って買った商品を一つ返品するとき、購入時の配分をたどって返金額を求めることを見ました。今回は、その返金を実現する二つの方法——部分返金と再注文——の使い分けを考えます。
元の注文へ一部返金するのか、元の注文を取り消して作り直すのか。どちらを選ぶのか。
要点先に、この回の要点
一部返品には「部分返金」と「元注文を取り消して作り直す(再注文)」の二つがあり、どちらが正しいかは算数だけでは決まりません。注文状態・発送・決済状況で選択が変わり、どの条件でどちらを選ぶかを運用ルールとして決めないと、担当者ごとに処理が割れて集計が合わなくなります。
- 注文の作り直しは商品を減らすだけでなく、クーポン条件・送料無料・ポイントをまるごと組み直すこと。
- 部分返金と再注文は、支払額が同じでもシステムに残る取引の形が違い、売上・値引・返品・税の集計がずれる。
- 「一部返金機能を作って」だけでは決まらない。システムを作る前に、どの条件でどちらを選ぶかの運用を決める。
前回は、割引を使って購入した商品を一つ返品するとき、いくら返金するのかを考えました。注文全体で500円引きになっている場合、その500円は商品ごとに分けられています。そのため、返品する商品の通常価格をそのまま返せばよいとは限りません。しかし実際の業務では、細かく逆にたどって返金する方法だけが使われるわけではありません。元の注文を取り消し、残す商品で新しい注文を作り直すこともあります。
商品を一つ取り消したい
前回と同じ注文を使います。商品A・商品Bは税込1,000円、商品Cは税込1,001円、商品合計3,001円。注文全体で500円引きのクーポンを使い、支払額は2,501円。500円は、商品A167円・商品B166円・商品C167円のように配分されていたとします。
商品Cについて実際に負担した金額は 1,001円 − 167円 = 834円。商品Cだけを返品するなら、前回の考え方では834円を返金します。これは、元の注文を残したまま、購入時の計算をたどる方法です。
元の注文を作り直す方法
実務では、別の方法を選ぶこともあります。元の注文を取り消し、残す商品だけで最初から組み直す方法です。
- 元の注文を取り消す
- 商品Aと商品Bだけで、新しい注文を作る
- クーポン・送料・ポイントを、改めて計算する
- 元の支払額との差を、返金または再決済する
今回、残る商品はAとBで、1,000円 + 1,000円 = 2,000円。この2,000円について、クーポンを使えるのか、送料はいくらか、ポイントを何ポイント使うのかを、改めて決めます。複雑な計算を一つずつ戻すより、新しい注文として計算し直したほうが、処理を整理しやすい場合があります。
作り直せば、簡単に終わるわけではない
注文を作り直せば、前の計算を考えなくてよいわけではありません。たとえば、500円引きクーポンの条件が「税込3,000円以上の購入で利用可能」だったとします。元の注文は3,001円なので利用できました。しかし商品Cを外すと、残るのは2,000円。新しい注文では、クーポンの条件を満たしません。
送料も同じです。「税込3,000円以上で送料無料」だった場合、商品Cを外すと商品合計は2,000円になり、条件を下回ります。ポイントも同様で、残る商品代が少なければ利用できるポイント数に上限があるかもしれず、購入時に付与したポイントの取消も必要です。
注文を作り直すとは、商品を減らすことではない。
クーポン・送料・ポイントの条件を、まるごと組み直すことだ。
決済の状態によって、選べる方法が変わる
注文を作り直せるかどうかは、決済の状態にもよります。まだ売上が確定していなければ、元の決済を取り消して新しい金額で決済し直せることがあります。一方、すでに売上が確定している場合や、商品発送後の場合には、元の決済を完全に取り消せないことがあります。その場合は、元の注文へ一部返金する、新しい注文で追加請求する、差額を別の方法で精算する、といった対応になります。
つまり、部分返金か再注文かは、算数だけでは決まりません。注文の状態、発送状況、決済方法も関係します。
担当者によって処理が違うとどうなるか
ここで問題になるのが、同じ返品に対して、担当者ごとに処理方法が違う場合です。同じ商品Cの返品でも——ある担当者は購入時の配分をたどって834円を返金し、別の担当者は元の注文を取り消して商品A・Bで作り直し、さらに別の担当者は通常価格1,001円をそのまま返すかもしれません。
一件ずつ見れば、担当者は正しく処理しているつもりかもしれません。しかし全体で見ると、同じ条件から別の答えが生まれています。これは、担当者の計算能力の問題ではありません。
どの条件なら部分返金し、どの条件なら作り直すのか。
それが決まっていない——運用ルールの問題だ。
決算時に数字が合わない原因にもなる
部分返金と再注文では、お客様が最終的に支払う金額が同じでも、システムに残る取引の形は違います。部分返金なら、元の売上・返品額・値引き額・返金額が、元の注文に結び付いて残ります。再注文なら、元注文の取消・新しい注文の売上・新しく判定した割引・送料・ポイント処理が残ります。
担当者ごとに処理方法が違うと、売上総額・値引き総額・返品総額・送料売上・ポイント利用額・消費税額・注文件数の集計も揃わなくなります。最終的な入金額は合っている。しかし、販売管理システムの売上や返品の数字が合わない。会計システムへ連携した数字とも一致しない。原因が計算式とは限りません。同じ返品を、担当者によって別の取引として記録していたことが原因かもしれません。
同じ条件なら、同じ処理にする
部分返金と再注文のどちらか一方だけに統一できない場合もあります。その場合は、使い分ける条件を決めます。
- 発送前なら、元注文を取り消して作り直す
- 発送後なら、一部返金にする
- 商品交換を伴う場合は、再注文にする
- 決済取消が可能なら、取消後に再決済する
- 決済取消ができない場合は、差額を返金する
- クーポンや送料条件が大きく変わる場合は、管理者が判断する
大切なのは、担当者がその場の感覚で選ばないこと。同じ条件なら、担当者が変わっても同じ処理になるようにすることです。
柔軟な運用と、決まっていない運用は違う
複数の処理方法を用意すること自体は、悪くありません。注文の状態や決済方法に応じて部分返金と再注文を使い分けることには、合理性があります。しかし、使い分ける条件がなければ、それは柔軟な運用ではありません。担当者ごとに答えが変わる、決まっていない運用です。機能を複数用意するなら、どの機能を、いつ、誰が使うのかまで決める必要があります。
システムを作る前に、運用を決める
「一部返金機能を作ってください」「注文内容を変更できるようにしてください」——という要望だけでは、実際の処理は決まりません。先に決めるべきなのは、元の注文を残すのか取り消すのか、新しい注文を作るのか、クーポンを再判定するのか、送料を再計算するのか、ポイントを戻すのか、決済を取消するのか、どの条件で処理方法を切り替えるのか、という運用です。運用が決まってから、それに必要なシステム機能を考えます。
誰が決め、何が計算され、何を残すのか
注文を作り直す処理は、計算式だけの問題ではありません。元注文をどう扱うかという業務判断です。判断・計算・記録に分けて考えます。
- 元注文を変更するか
- 取消と再注文に分けるか
- 売上計上日をどう扱うか
- 注文件数をどう数えるか
- 取消額を求める
- 返金額を求める
- 再注文額を求める
- ポイント・在庫の戻しと再引当を行う
- 元注文
- 取消取引
- 再注文
- 各取引の関連
- 処理日時と処理理由
返品分を返金して、注文を直す。
注文確定後の商品変更は、元注文の明細を直接更新せず、対象明細の取消処理と新規注文明細の登録によって行う。取消取引および新規取引には、元注文を識別できる関連番号を保存する。
部分返金か、取消と再注文か——どちらか一方が常に正しいわけではありません。重要なのは、どの条件でどちらを選ぶかを決め、同じ取引履歴から売上・返金・件数まで同じ結果を再現できることです。
決済の入金額と、販売管理の売上が一致しない。締め作業のたびに、手作業で突き合わせることになる。
返金には、購入時の計算を逆にたどる部分返金と、元の注文を取り消して組み直す再注文があります。どちらも実務上はあり得ます。問題は、担当者によって使う方法が変わること。同じ返品を、一部返金・再注文・通常価格の返金という別々の方法で処理すれば、返金額だけでなく、売上・値引き・返品・送料・ポイントの記録も変わります。その違いは、日々の処理では小さく見えても、積み重なると月次や決算で数字が合わない原因になります。どちらを使うのか、どの条件で切り替えるのか、誰が判断するのか、元の注文と新しい注文をどう結び付けるのか。そこまで決めて、初めて返品や注文変更の運用が完成します。機能を用意することと、運用を決めることは、同じではないのです。
よくあるご質問(FAQ)
一概には言えません。注文状態・発送状況・決済方法で選べる方法が変わります。大切なのは、どの条件でどちらを選ぶかを決め、担当者が変わっても同じ処理になるようにすることです。
いいえ。商品を外すとクーポン利用条件・送料無料・ポイント付与の条件を下回ることがあり、それらをまるごと組み直す必要があります。
違います。部分返金と再注文ではシステムに残る取引の形が異なり、売上総額・値引・返品・送料・ポイント・消費税・件数の集計が揃わなくなることがあります。
足りません。機能の前に、どの条件で部分返金/再注文を使い分けるかという運用ルールを決める必要があります。
